第76号:二律双生。
このお便りは、25358 名のお嬢様、旦那様に宛ててお送りいたしました。
お嬢様、旦那様、夕方の慌ただしいところ、お騒がせを致します。
執事の館・準備委員会、広報係の松原でございます。
東海地方は桜も散り始め、場所によっては鮮やかな緑色の葉が顔を出しているようです。
そちらの様子は如何でしょうか?お花見はもうお済みでいらっしゃいますか?
いよいよ「名古屋の仮住まい」も大詰めを迎えておりまして、それぞれの機能を担う部屋が、
次第に完成に近付いております。この1週間で壁紙が張られて、お嬢様、旦那様にお使い頂くエリアには、
カーペットも敷設が済み、現在は養生したところを職人が慌ただしく行き来をしております。
また、最優先で作業を進めております1階の給湯室、2階の厨房も、間もなく仕上がる予定です。
すでに給湯室には機材が搬入され、家事係が申し付けやお皿を取り交わすカウンターが出来れば、
紅茶のテストにも取掛かれるでしょう。ただ、浄水器の設置が行なわれておりませんでしたので、
後追いの工事で追加することになります。現場の皆さんには、本当に申し訳ないのですけれども…。
2階の厨房は、予定から遅れて本日床の塗装を完了したところ。昨日は有機溶剤独特の刺激臭が漂い、
他の作業に支障があったようですが、本日は匂いもなくなり、立ち入り出来るようになっていました。
今週の土曜日、12日には国内メーカーに特注していたデッキオーブンが届きますので、
それまでに厨房内がおおよそ完了するものと伺っております。
厨房が仕上がれば、これまでテストッ…テストキッチンで行なってきたお菓子作りの環境を移行し、
本番環境で試作を再開、同じレシピで、同じ品質のものをお作りできるように準備を進めます。
また給湯室のドリンクの選定もほぼ完了。開館直後の紅茶は6〜10種類ほどを揃えて、
順次、銘柄を増やして行く方針で準備を行なっております。ただしコーヒーについては、現時点で、
執事の館・準備委員会が納得する味に辿り着けず、後追いでマシンと豆を納入する可能性が濃厚です。
オレンジジュースは、果肉のあるものと、ないものをご用意致しましょう。
- -
加えて、食器、カトラリーの発注作業も並行しております。かねてよりお伝えしていたとおり、
主な食器、カトラリーはノリタケ社(名古屋市西区)の製品を積極的に採用することになりました。
ただしバリエーションは1種類のみ。早い段階で、現行のモデルを全て揃える予定をしておりますが、
従業員がすべての銘柄を把握し、取り回しができるまでお時間を頂きたいと考えております。
このほか家事係の東山(ひがしやま)が中心となって、お屋敷に必要なアイテムを手配しております。
中でもテーブルクロス、ナプキン、おしぼりなどの布製品は、既製品に適当なものが見当たらず、
「愛知県名古屋市のワンピース」を担当する職人に相談して、結果として自作になる模様です。
最初は刺繍などのない、簡素なものになるかもしれませんが、何卒お許しくださいませ。
そして「名古屋の仮住まい」にて、お嬢様、旦那様から寄せられる飲食の申し付けを把握するために、
給湯室、厨房に置かれるエプソン製レシートプリンタの機種選定を完了、テスト機が今日届きました。
できれば口頭や伝票で意思の伝達をできれば良いのですが、主の手帳との連携など利便性、
申し付けから給仕までのタイムラグを極限まで短くする目的で、導入を決定しております。
また専門的な話題ですが、今週インターネットではSSLと呼ばれる暗号化の仕組みに、
重大なセキュリティ・ホールが発見されました。暗号化に必ず必要な「秘密鍵」と「公開鍵」のうち、
絶対に知られてはならない「秘密鍵」が、ある手順を踏むと外部から取得できるという問題です。
これは過去にも例のない、深刻な問題であるとのこと。即座に手帳係がアップデートを行ない、
お嬢様、旦那様の個人情報が流出するリスクを最小限に食い止めております。
- -
さて、話は変わりますが「愛知県小牧市のバウムクーヘン」の抹茶バージョン、
「愛知県西尾市のバウムクーヘン」が、やっと自信をもってお勧め出来る品質になりました。
「西尾の抹茶」は2009年2月、抹茶としては日本で初めて「地域ブランド」に特許庁から認定。
愛知県西尾市、安城市、幡豆郡吉良町(2011年4月西尾市と合併)で生産された茶葉を、
同地域において碾茶(てんちゃ)に加工、精製し、石臼でひいたものです。
西尾の主な栽培方法は【棚式覆下栽培】。豊かな土壌と温暖な気候、そして太陽光の照射を
最小限に抑えるため茶畑全体を覆い、その陰の中で栽培・収穫されるものと伺っております。
温度が上がりにくい石臼で1時間につきたった40g、丁寧にゆっくりと挽くことによって得られる、
淡い緑色、まろやかな旨味と甘味が、日本はもちろん、世界からも高く評価されております。
これに対して、有名な「京都府宇治市の抹茶」は京都、奈良、滋賀、三重の4府県産の茶で、
京都府内の業者が、京都府内で仕上げたものを指すということです。
特に高級抹茶において圧倒的シェアを持つ京都府には、周辺地域から上等品が集っておりますね。
宇治抹茶は【直接被覆栽培】で、豊かな土壌、昼夜の温度差が大きい気候が特徴でして、
茶畑を"よしず"や"わら"で覆うことで太陽光の照射をおさえ、囲いを取り収穫されます。
このため濃い緑色の、ほど良い渋味のある、しっかりとした味と濃い緑色が特徴です。
同じ抹茶でも、製法が異なるのですね。
- -
今回、愛知県の地域ブランドである「西尾市の抹茶」を用いたバウムクーヘンの開発は、
ひとまず、市販されている複数の「抹茶のバウムクーヘン」を入手することから始まりました。
原材料を確認しながら試食を行い、改めて抹茶を使用したお菓子の問題点を改めて認識致しました。
抹茶を使用したお菓子、食品の多くは、緑色の"着色料"や"クロレラ"で色の補強を行います。
これは、光による退色(褐色変)や、食品加工時の熱による退色(褐色変)など、
太陽光はもちろん、蛍光灯の光でも退色してしまう特性をカバーし、抹茶の色を維持するためです。
(極端なものは灰色や茶色になってしまい、食欲を削ぐ色になってしまうのだとか…困りますね。)
今回は、これら着色料、香料を一切使わず、抹茶そのもの鮮やかな色を保持する加工方法を採用。
「西尾市の抹茶」の風味を生かしながら、抹茶のみでその味と色を出すことに成功しております。
西尾の抹茶の、まろやかで、香り高く深い味わいを活かすために、濃厚な名古屋コーチンではなく、
当日の朝、入荷した新鮮な卵を。また香りが強い発酵バターではなく、カルピス無塩バターを用いて、
さらに油分の一部を無色透明な"太白胡麻油"に置き換えることで、酸化や加熱に強く、
やわらかくしっとりした食感のバウムクーヘンを目指しました。
- -
「抹茶」という素材は良く知られておりますが、お菓子の素材としては非常に使いづらく、
ダマになったり、膨らみを抑制したり、パサつきの原因となったり…職人泣かせの原料でございます。
西尾市の抹茶の風味を出すため、母体となるバウムクーヘン自体はあっさりとした食感に留めて、
後ほどバターの風味を十分醸しながら、抹茶の余韻を感じて頂くことにしました。
4回目の試作のあと、あと少し、何かが足りない。それが何であるか、誰もが言葉にできない。
そのとき、「ハーゲンダッツの抹茶アイスって、なぜバランスが取れているのでしょうか?」
という現場スタッフの何気ない問いかけが、大きなヒントになりました。
ハーゲンダッツの原料を確かめると、抹茶の味を深めるために乳製品が多用されている様子。
「愛知県西尾市のバウムクーヘン」の場合は、その配合の中で生クリームに注目し、
卵やバターを抑えることで、抹茶の美味しさを際立たせることに成功致しました。
無着色、無香料。正真正銘、「西尾市のバウムクーヘン」の完成でございます。
この品の申し付けは、【2014年4月19日(土曜日)21時10分】より承ります。
これについては追って、ご案内をしましょう。
- -
ところで、きょう4月10日の20時00分より、お嬢様、旦那様の帰宅予告リハーサルを行ないます。
この時間になると「主の手帳」に帰宅日時の一覧が表示されますので、適当な日時を選択して、
予告をお試しください。本日はお嬢様、旦那様のアクセス負荷がどこまで大きくなるか把握すること、
手順の分かりやすさについてアドバイスを頂くことを目的としております。
https://www.butlers-house.net/member_login
時間になりますと、「主の手帳」の右側に帰宅予告と、帰宅予定の一覧が表示されます。
この中で、本来であればご友人のメールアドレスを記入して招待をする機能がございますが、
今日はダミーのアドレスが入っておりますので、そのまま招待ボタンを押下ください。
くれぐれも、正式な予告ではないことをご了承のうえ、お力添え頂けますと幸いに存じます。
- -
タイトルの「二律双生(にりつそうせい)」は、トヨタ自動車がレクサス事業部を立ち上げる際に、
ブランドコンセプトとして掲げた言葉だそうです。「二律背反(にりつはいはん)」という熟語を
逆にして、相反する2つの要素を両立させるという意味の造語であります。
走行性能と環境性能。静粛性と運転時のフィードバック。高級感と経済性。
様々な条件を両立させる思想は、執事の館・準備委員会の取組みにも似通ったものがあるでしょう。
変色しやすく、生地の膨らみを抑制してしまう抹茶の特性を理解しながら、
一切の補色をせずに色鮮やかで、ふっくらとしたバウムクーヘンを仕上げるまでには、
工場長の黒川さんをはじめ、現場の職人の皆さんがお嬢様、旦那様に喜んで頂きたい一心で、
失敗を恐れず、諦めず挑戦された結果ではないでしょうか。
この姿勢こそが、私たちのお仕えと言えましょう。
さてお嬢様、旦那様、今晩の帰宅予告をお待ちしておりますよ。
手帳のご準備は宜しいですか?えっ、合言葉をお忘れになった?
もう…。
名古屋市中区、名古屋観光ホテルのロビーにて。
このお手紙は、執事の館・準備委員会の広報係、松原がお送りしました。
準備委員会のあゆみは「過去のお便り(バックナンバー)」から、ご覧くださいませ。
http://www.butlers-house.net/blog/entries
メールアドレスやお名前の書き換え、退会手続きなどは、下記URLから承ります。
https://www.butlers-house.net/member_login
執事の館へのご要望、お問い合わせは info@butlers-house.net までお寄せ下さい。